メタルファンのなかにはグランジに対して苦々しい思いを抱いている人も多いのではないでしょうか。
90年代初頭、それまでメインストリームだったヘヴィメタルを駆逐してしまったグランジ。メタルファンにとってはトラウマのような存在ですが、はたして本当にメタルの敵なのか?
冷静になって聴いてみると、ルーツやサウンドはメタルとの共通点が多いことが分かります。ぼくはグランジをメタルの一種と捉えてもいいのではないかと思っています。
つまり、グランジに対する偏見をやめて、メタルとして楽しもうじゃないかと思うわけです。
ということで、今回はメタルファンでも比較的聴きやすいであろう、メタル寄りのグランジの名盤をピックアップしました。
この記事は元外資系CDショップのメタルバイヤーでメタル歴25年のゆうきち@yukichi_campが書いています。
まずはグランジとは?からざっくりと解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
グランジとは
80年代末から90年代初頭にかけてアメリカはシアトルを中心に勃興したムーブメントのことです。
80年代の商業化したヘヴィメタルへのカウンターとして登場すると、瞬く間に音楽シーンを席巻。メインストリームの座をヘヴィメタルから奪いました。
「グランジ」の語源は「うす汚れた」という意味の形容詞 【Grungy】。
また、「グランジ」という言葉を初めて音楽ジャンルとして使ったのはGREEN RIVERのヴォーカリスト、マーク・アーム(現MUDHONEY)と言われています。
また、ボロボロのジーンズにネルシャツといったミュージシャンらしからぬファッションも特徴的です。
歴史
グランジのおもなルーツは、パンク/ハードコアと70年代ハードロック。いわば、パンクのアティテュードでハードロックをプレイしたものがグランジです。
グランジと切っても切り離せないのが、シアトルを拠点とするインディレーベル「サブ・ポップ」。
1987年にPEARL JAM、MUDHONEYのメンバーが在籍していた「グランジの元祖」ともいえるGREEN RIVERのEP「Dry As A Bone」をリリースすると、
- SOUNDGARDEN
- MUDHONEY
- NIRVANA
といった、のちのグランジムーブメントの主役となる重要バンドを次々にメジャーへ送り込みました。
シアトル以外では1986年にMELVINSがデビュー。彼らのヘヴィでスローなサウンドはグランジやストーナーロックに大きな影響を与えました。
1991年、NIRVANAがメジャーからリリースした2ndアルバム「Nevermind」が大ヒット。全米アルバムチャート1位を獲得するなど商業的に大きな成功を収めたことにより、世間の注目がグランジに集まります。
NIRVANAに続いて、
- PEARL JAM
- ALICE IN CHAINS
- SOUNDGARDEN
- SMASHING PUMPKINS
らもミリオンセラーを記録。グランジがメインストリームにのし上がっていきます。
また、JANE’S ADDICTIONのペリー・ファレル主催のフェス「ロラパルーザ」もグランジムーブメントを強力に後押し。
PEARL JAM、SOUNDGARDEN、STONE TEMPLE PILOTSらが出演するなど、グランジ躍進に大きな役割を果たしました。
一方で、80年代に黄金時代を築いたハードロック/ヘヴィメタルは完全に失速。大物バンドですら音楽性の変化を余儀なくされてしまいます。
華やかでキャッチーな音楽性で人気を誇っていた
- BON JOVI
- DEF LEPPARD
- SKID ROW
- MOTLEY CRUE
- DOKKEN
- WINGER
- QUEENSRYCHE
などがヘヴィでダークなサウンドへと変化。ファンの間で物議を醸しました。
それほどグランジのインパクトが大きかったということです。
そんなグランジムーブメント絶頂の1994年、グランジの象徴的存在だったNIRVANAのカート・コバーンが自殺。この大事件をきっかけに、ムーブメントが急速に冷めていきます。
1996年ごろにはグランジは消滅。同時に新しいヘヴィミュージック「ラウドロック/ニューメタル」が台頭するのでした。
おもな特徴
- ブリブリのファズサウンド
- リフ中心
- 生々しくダイナミック
- 内省的な歌詞
グランジおすすめの名盤10選
▶各楽曲30秒試聴できます!
1. SOUNDGARDEN「Badmotorfinger」(1991)
【グランジ・シーン最古参バンド】SOUNDGARDENがもっとも正統的HR/HMを鳴らした3rdアルバム。
BLACK SABBATH譲りのヘヴィネスとLED ZEPPELINを思わせるブルージーなニュアンスは紛れもなくハードロックである。
ドス黒いグルーヴとクリス・コーネルの圧倒的な歌唱力に魂が震える。
おすすめ曲:1、2
2. ALICE IN CHAINS「Dirt」(1992)
全米アルバムチャート6位を記録した名盤2nd。
ドロドロのヘヴィサウンドと美しくも屈折したメロディ&ハーモニーは中毒性が高い。
リフがメタリックなため、メタルファンにとってはグランジ入門に最適な一枚。
おすすめ曲:1、4
3. PEARL JAM「Ten」(1991)
全米アルバムチャート2位を記録した「グランジの代名詞」PEARL JAMのデビューアルバム。
ギターソロもバリバリ弾きまくるグルーヴィーな正統派アメリカン・ハードロック。エディ・ヴェダーの熱いハスキーヴォーカルも説得力充分。
しかし、当時の日本のHR/HMファンには刺さらなかった。
おすすめ曲:1、2
4. NIRVANA「Bleach」(1989)
グランジの申し子NIRVANAがサブ・ポップからリリースしたデビューアルバム。
BLACK SABBATHを思わせる潰れたギターと重く引きずるサウンドがメタルファンに美味しい一枚。
初期衝動とアングラ感が充満しているものの、次作「Nevermind」に通じるキャッチーなセンスが見え隠れしている。
おすすめ曲:4、7
5. SMASHING PUMPKINS「Siamese Dream」(1993)
全米アルバムチャートトップ10入りしたスマパンの2ndアルバム。
ヘヴィメタルとドリームポップを融合した、とにかくメロウで甘いメロディが至福の名盤。
ビリー・コーガンの鼻にかかった歌声もエモくてかわいい。
おすすめ曲:1、2
6. STONE TEMPLE PILOTS「Core」(1992)
サンディエゴ出身、「商業グランジ」とも揶揄されたSTPのデビューアルバム。
他のグランジバンドと比べても、艷やかなメロディや整合感ある楽曲は限りなくHR/HMに近い。
スコット・ウェイランド(Vo)のキケンで怪しげな雰囲気はロックスター然としていた。
おすすめ曲:2、9
7. MELVINS「Houdini」(1993)
「グランジの生みの親」と言っても過言ではないMELVINSのメジャーデビュー作(通算5作目)。
ユーモアと実験精神に溢れた激重サウンドはドゥーム/スラッジやストーナーロックにも影響を与えた。
4.はKISSのカバー。8.13.にはNIRVANAのカート・コバーンが参加。
おすすめ曲:1、5
8. TAD「Inhaler」(1993)
巨漢タッド・ドイル(Vo、Gt)率いるバンドのメジャーデビュー作(通算3枚目)。
HELMETなどのモダンヘヴィネス/グルーヴメタル勢にも通じるメタル寄りグランジの隠れた名盤。
ギターの刻みやツーバス連打もメタリックでアツい。
おすすめ曲:1、2
9. L7「Bricks Are Heavy」(1992)
ライオットガールムーブメントの一端を担ったガールズバンドのメジャーデビュー作(通算3枚目)。
メタルサウンドでパンクをプレイしたような、ガラの悪いロックンロールが痛快。
グランジ版GIRLSCHOOLと言いたくなるカッコよさ。
おすすめ曲:1、10
10. GRUNTRUCK「Push」(1992)
メタルレーベル「ロードランナー」からリリースした2ndアルバム。
クロスオーバースラッシュバンドTHE ACCUSEDのメンバーを擁し、PANTERAともツアーしたことからも分かるとおり、音は完全にヘヴィメタル。
ALICE IN CHAINSやSOUNDGARDENの次に聴いてほしい。
おすすめ曲:1、2
【グランジ名盤10選】まとめ
以上、グランジの名盤を紹介しました。
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